先週末1月11日(日)、今年度最後の特別投影「星空音楽館」を行いました。

テーマは「死と生と」。というわけで、なぜそのテーマにしたのか、どの曲を流したのか、選曲の理由は、振り返ってみたいと思います。

テーマ設定の理由は、冬の星空がいわゆる“星の一生”をたどるのにふさわしい舞台だからです。星の誕生の場である星形成領域、若い星のあつまりである散開星団、壮年の星である主系列星、晩年を迎えた星である赤色巨星、“軽い”星の最期の姿である惑星状星雲、そして“重たい”星の最期の姿である超新星残骸、これらがすべて見られるだけでなく、有名な天体が揃い、しかも肉眼で見られる天体がいくつもあるのです。2020年の2月に「ゆりかごから墓場まで ~星の一生をめぐる」というプラネタリウム一般向け番組を投影しましたが(残念ながら新型コロナウイルス感染症の流行で2月末を最後に投影中止)、それも同じ理由です。
そして今回は星の一生の中でも“死”に注目しました。“死”は必ず生とつながります。というわけで「死と生と」というテーマにしたわけです。

投影中に流した楽曲は以下のとおりです。
▶E.H.グリーグ 『ペール・ギュント』第2組曲 より「ソルヴェイグの歌」
▶F.P.シューベルト 弦楽四重奏曲第14番 ニ短調 D 810 より 第二楽章
▶C.C.サン=サーンス 交響詩『死の舞踏』
▶G.マーラー 交響曲第2番 ハ短調

「ソルヴェイグの歌」をお聴きいただきながら日の入りを迎え、やがて夜空は満天の星へ。「ソルヴェイグの歌」は戯曲『ペール・ギュント』の主人公ペールが放蕩の末、すべてを失って故郷に帰還し、彼を待ちづけていた元恋人(というか勝手にペールが勝手に置いてけぼりにした)ソルヴェイグの歌を聴きながら息を引き取るシーンで流れる楽曲です。劇不随音楽『ペール・ギュント』の場合は女声独唱ですが、組曲の場合はそれが器楽に置き換わっています。穏やかさと悲しさが同居したイ短調の楽曲で、まさに日の入りにふさわしい曲といえるでしょう(『ペール・ギュント』第1組曲には「オーセの死」という、まさに死を扱った曲があるのですが、悲壮感が勝ってしまうのでやめました・笑)。

続いて、冬の星空にある惑星状星雲や超新星残骸を写真や映像で紹介しつつ、前者でシューベルトの弦楽四重奏曲を、後者でサン=サーンスの交響詩をお聴きいただきました。冬の夜空にはいくつもの惑星状星雲や超新星残骸を見ることができます。前者の例としてはふたご座のエスキモー星雲(下画像/Credit: NASA, ESA, Andrew Fruchter (STScI), and the ERO team (STScI + ST-ECF))やうさぎ座のスピログラフ星雲、後者の例としてはおうし座のかに星雲が挙げられます。特にかに星雲は藤原定家の日記『明月記』などに記録が残された超新星の残骸ということで、つとに知られています。

シューベルトの弦楽四重奏曲第14番は「死と乙女」という愛称が付いています。第2楽章の主題が、シューベルト自身が作曲した歌曲『死と乙女(D 531)』のピアノ伴奏にもとづいているがゆえです。死神が乙女に、お前に安息を与えに来たのだ、と語りますが、それを彷彿とさせるように、不安感を煽りつつも穏やかさを感じさせる曲でもあります。なお、“死と乙女”というテーマはしばしば絵画のモチーフにもなりました。下の画像はH.バルドゥングの筆による『死と処女』です。

サン=サーンスの交響詩『死の舞踏』は、彼がフランスの詩人H.カザリスの詩にインスピレーションを受けて作曲した歌曲を管弦楽曲に編曲したもの。午前0時の時計の音とともに骸骨現れて不気味に踊り始め、激しさを増していきつつも、夜明けを告げる雄鶏の鳴き声が響き渡ると骸骨たちは墓へ逃げ帰り、辺りが静寂に包まれるまでの流れを描写しています。この“死の舞踏”というテーマも、しばしば西洋絵画のモチーフとなりました。下の画像はM.ヴォルゲムートの筆による『死の舞踏』です。

ところで、星の“死”は終わりを意味するわけではありません。惑星状星雲にしろ超新星残骸にしろ、宇宙へ四散し広がっていたガスは、やがて再び集まり、次なる星の材料となります。死が生を生み出すのです。そして冬の夜空にはオリオン大星雲をはじめとする無数の星形成領域があるのです。星の再生……復活……というわけで最後にお聴きいただいたのが“復活”の愛称を持つマーラーの交響曲第2番だったのです。マーラーの交響曲は大曲が多く、第4楽章を選んだのは時間の都合に過ぎませんが、マーラーが残した標題ともいえる文章には「単純な信仰の壮快な次のような歌が聞こえてくる。私は神のようになり、神の元へと戻ってゆくであろう。」と書かれていて、まさに星の輪廻にふさわしい曲といえるのではないでしょうか。

今年度の「星空音楽館」はすべて終了しましたが、来年度も季節に1回、全4回を予定しています。3月にはスケジュールを公開する予定です。来年度もご来場をお待ちしています。