現在投影中のプラネタリウム一般向け番組「星は巡る 星の文人・野尻抱影が見つめた星空」。その制作秘話、というかBGMについてちょっとご紹介しましょう。

プラネタリウム番組のBGM選曲は、番組制作の中でかなりのウェイトを占めます。内容(雰囲気)に合う曲を選ぶのはもちろんですが、長さ、音量の振れ幅、などなど気をつかうことが結構あるのです。

当番組の場合、真っ先に決まったのがエンディングのシーンの曲、R.シューマン作曲、組曲《子供の情景》第7曲「トロイメライ」です。これには理由があります。野尻抱影 著『星 三百六十五夜』に「プラネタリウム」(6月19日)という一節があり、そこに以下のように書かれています。
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ツィゴイネル・ワイゼンを放送している。聞きながら目を閉じていると、戦争で破壊された前の毎日天文館のプラネタリウムがはっきり見えて来る。解説者の一人の秋元君――惜しくも亡くなった――が音楽院出身で、毎回いろいろのレコードをかけていたが、夜明けには多くこの曲だったからだ。
思い出はなつかしい。解説が始まってまだ明るい間は、地平を回る風景の黒いシルエットを、ポインターの赤い灯の矢が指しながら一巡する。「愛宕山の名残りのアンテナ」などもうまい言葉だった。終りに宮城の上にかかると、「かしこくも大内山の……」と言って、ここだけは灯の矢を横にすべらせて行く。なるほどと、当時は感心していた。
トロイメライなどの静かな音楽の間に、太陽がシルエットの蔭へ沈むと、しばらく西は「水いろの薄明」で、宵の明星が、時には水星も低くにじんでいるが、それも暮れて、ドームの天井はさんぜんたる星空となる。この瞬間はいつも声をあげたいほどの美しさだった。(後略)
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これを読むとツィゴイネル・ワイゼンを流したくもなるのですが、ちょっとドラマティックすぎるかな?と(笑)
というわけでトロイメライを採用し、全体の統一感をはかるために全曲ピアノ曲にしたわけです。なお、毎日天文館(開館時は東日天文館/下画像)とは戦前の東京にあったプラネタリウム施設で(日本で2番目に開館)、惜しくも1945年の東京(山の手)大空襲で焼失してしまいました。

なお、残りの曲は、そのシーンで紹介している星座や天文現象から浮んだイメージをもとに選曲をしました。例えば彼がハレー彗星(下画像)を見た思い出を回想するシーンでは、夜明け前……空がだんだん明るくなっていくという情景、待ち望んでいたハレー彗星を見れたという高揚感に合う曲ということで、G.フォーレ作曲、ノクターン第6番 変ニ長調 作品63を選びました。自らの楽曲に劇的表現を求めなかったというフォーレ。彼の作品は『レクイエム』をはじめとして“静”のイメージがあります。そして黒鍵を多用する変二長調という調性は、ピアノが柔らかい音を奏でるという特徴があります。ほかの曲にも、それぞれ理由があるのですが、長くなるのでここまでにしておきましょう。

プラネタリウム番組は星やテーマ(天文学や天文現象)が一番の見どころですが、何回か足を運んでいただいて、BGMに傾聴してみるのもおもしろいかもしれませんよ。「星は巡る 星の文人・野尻抱影が見つめた星空」の投影も残すところあと3日間5回。まだの方はもちろん、一度見た方も、ぜひご来館ください。
「星は巡る 星の文人・野尻抱影が見つめた星空」投影日:
▶12月25日(木) 11時~/14時~
▶12月27日(土) 14時~
▶12月28日(日) 11時~/14時~