昨日より、プラネタリウム一般向け番組「見たか家康 家康の生涯を彩る天変」が始まりました。
家康の生涯において起きた、家康が見たかもしれない天文現象を紹介する番組ですが、時間の都合もあって現象の天文学的解説があまりできていません。そこで、不定期ですが、番組の内容の理解の助けになるよう、この博物館日記で解説していきましょう。第1回は「元亀三年の超新星」です。

1572年11月6日(元亀三年十月一日)、北天、カシオペヤ座の領域に超新星SN 1572が出現しました。その後、デンマークの天文学者ティコ・ブラーエが詳細に観測したため”ティコの星”とも呼ばれるこの超新星、一時は金星に匹敵する明るさにまでなったと記録されています。

ティコが残したSN 1572の記録

なぜ、このように明るい星がいきなり現れたのでしょうか?新しい星が生まれたかのように見えるために超新星(※1)と名づけられたこの現象、実は星の大爆発なのです。
超新星は、そのスペクトル(※2)中に水素の吸収線が見られるI型と見られないII型に分類され、I型はさらにIa型、Ib型、Ic型などに分けられます。このうちIb型やIc型、II型は、太陽の8倍以上の質量を持つ恒星が最期を迎えるときに起こす大爆発ですが、Ia型は違います。Ia型超新星は恒星ではなく白色矮星が爆発する現象なのです。

白色矮星とは、その名の通り白く(高温)で小さな天体です。太陽の数倍以下の恒星の最期の姿で、直径は地球ほどしかありませんが、質量は太陽程度もある高密度な天体です。
ある恒星Aと、それより質量の小さな恒星Bが連星系をつくっていたとします。恒星は質量が大きいほど寿命が短いため、恒星Aは恒星Bより先に最期を迎え、質量が太陽の8倍以下であれば白色矮星を残します。その後、恒星Bも晩年を迎え、膨張し赤色巨星となります。すると、膨らんだ恒星Bの外層のガスが白色矮星の重力によって引き寄せられ、その表面に積もっていきます。すると、ガスの圧力が高まり白色矮星で核融合反応が起こります。この反応は暴走しやすく、短時間で白色矮星は大爆発を起こします。これがIa型超新星です(※3)。

Ia型超新星は、その爆発メカニズム的に絶対光度(地球からの距離に依存しない本来の明るさ)が大筋で一定だと考えられています(※4)。絶対光度がわかるということは、地球で観測した見かけの明るさと比較することで、その超新星、ひいてはその超新星が発見した銀河までの距離が計算できるということになります。そして非常に大規模な爆発現象であるため遠方の銀河で発生したとしても地球から観測することができます。つまり、遠方の銀河までの距離を測るための「標準光源」として使えるわけです。まさに宇宙の”灯台”ですね。現在では、多数のIa型超新星の観測から宇宙の膨張が加速していることが明らかにされています(※5)。

ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された超新星1994D
NASA, ESA, The Hubble Key Project Team, and The High-Z Supernova Search Team

なお、この超新星が出現した位置には、現在、爆発の残骸(超新星残骸)を見ることができます。下の画像は、チャンドラX線天文台(宇宙望遠鏡)で撮影されたその残骸の姿(※6)。爆発の激しさを証明するかのように、残骸の外層は秒速9,000 kmもの速さで膨張を続けています。また、爆発した白色矮星にガスを流入させた”犯人”も発見されていて、ティコGと呼ばれています。

NASA/CXC/Rutgers/J.Warren & J.Hughes et al.
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したティコG(画像右)
NASA, ESA, CXO and P. Ruiz-Lapuente (University of Barcelona)

この超新星発見の約2か月半後……1573年1月25日(元亀三年十二月二十六日)、武田軍と徳川軍は三方ヶ原で激突、戦闘は徳川軍の惨敗に終わりました。三方ヶ原合戦は夕刻に始まり、日が沈むころには大勢が決したようです。命からがら浜松城に逃げ帰った家康ですが、もしそのとき、城から三方ヶ原の方を望んだとすれば、その上に赤く輝く超新星が見えたはずです。まだ1等星をしのぐ明るさで、まぁまぁ目立ったはず……見たか?家康。そもそも合戦前から家康は超新星の出現に気づいていたのかいなかったのか(気づいていたなら不吉に感じてその方向には打って出なかったかも?)、合戦後の夜に超新星を見たのか見ていないのか、今となってはわかりません。そもそも、この超新星の観測記録は日本に残されていない(見つかっていない)のです。

夜空でどんな風にこの超新星が見えたのか、ぜひ、プラネタリウムで体験してくださいね。プラネタリウム一般向け番組「見たか家康 家康の生涯を彩る天変」は7月16日(日)までの土日曜日に投影しています(土曜日は14時~、日曜日は11時~/14時~)。

<注釈>
※1
やはり恒星の爆発である新星という現象があり、それよりも規模が大きいために超新星と呼ばれる。が、当時は現象自体の正体がわかっておらず(そもそもティコが観測する前は大気中の現象と考えられていた)、新星や超新星といった区別はなかった。

※2
天体からの光を波長ごとに分けて、その強さを測ったもの。

※3
Ia型超新星は、白色矮星同士の合体によって生じるという説もある。

※4
絶対光度は約-19等……太陽のおよそ50億倍と見積もられている。

※5
この研究を牽引したパールマッタ―らは2011年にノーベル物理学賞を受賞した。

※6
いくつかのエネルギーの異なるX線で撮影された画像を合成したものなので、実際にこんな色に見えるわけではない。