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相模川の生い立ちを探る会 第231回 2012年4月 「小坪~和賀江島の三浦層群」

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「相模川の生い立ちを探る会」 活動の記録

第231回 2012年4月8日 鎌倉市和賀江島



■ テーマ:小坪~和賀江島の三浦層群
■ コース:逗子市小坪~鎌倉市和賀江島~住吉神社~鎌倉第一中学校

 鎌倉市材木座海岸にある和賀江島は鎌倉時代に東国との貿易の拠点として開発された日本最古の築港遺跡で、国の史跡に指定されています。今回は春の大潮の日に、この和賀江島に渡り、中世の遺跡が何故水没してしまったのかを考えながら、ヤッコカンザシの棲息状況や和賀江島周辺の地層を観察しました。
 逗子市小坪マリーナの南東側海岸に降りると、右手には干潮時の波食台が広がり、左手には、薄い砂岩を挟む泥岩からなる三浦層群逗子層が見られ、正断層や白色凝灰岩も観察できました。ここには逆断層は認められませんでした。潮間帯には現生のヤッコカンザシも観察できました。ヤッコカンザシは潮間帯に生息が限定されるため、この化石が認められれば、元禄地震(1703 ) や大正関東地震(1923 ) による隆起量を推定できるということでした。
 干潮の時間帯に、史跡の和賀江島へ渡りました。港湾の石積みに使われた人頭大の玉石が散乱し、当時の港湾の原形は留めていませんでした。玉石の種類は、安山岩が多く、伊豆産や真鶴産の溶岩とのことでした。三浦半島の葉山層群の玉石もわずかに確認できました。築堤にあたり、箱根や伊豆から石が多量に運ばれたことを物語っていました。
 飯島崎付近ではヤッコカンザシを探し、海水面からの高さを測定しました。現生と化石のヤッコカンザシが、高さ約60 cm離れて2 層準にみられました。上位のものは大正関東地震前の汀線を示すものと思われます。この付近の逗子層の露頭ではコンボリュート葉理(地層を構成する葉理が呈する波状の縞状構造で、未固結時に外力によって生じた変形構造)も観察できました。同行の平塚市博物館栗山学芸員(考古担当)から、和賀江島は日本最古(1232)の港湾で僧侶が鎌倉幕府に建築請願したこと、江戸時代まで港として利用されていたが、震災や老朽化により瓦礫を残すのみとなっていること、文化財保護法により当時の港湾の再興ができないことなど、歴史分野について説明を受けました。
 午後、正覚寺駐車場から階段を登り、住吉神社のある辺りから和賀江島を見下ろすと、潮が満ちて既に島となっていました。住吉神社に向かって右側(南側)のトンネル内では、逗子層に挟在する、厚さ60 cmほどのゴマシオ状凝灰岩鍵層(Hk :東小路火山灰)が観察できました。鍵層とは、鉱物組成や岩相に特徴を持つ凝灰岩で、離れた地点の地層を結ぶ上で鍵となる地層をいいます。Hkには石英・斜長石の他に角閃石を多量に含んでいました。
 その後、「和賀江島の碑」のある場所では、碑が立てられている逗子層の岩盤にもヤッコカンザシ(上位) とエゾカサネカンザシ(下位)の2 種類のゴカイが上下に棲み分けて棲息していました。
 最後の観察地である鎌倉第一中学校南側には逗子層が露出していました。小坪マリーナから北に1 km以上離れたこの地点まで逗子層が続いていることから、逗子層の厚さは数100 m以上あるとの解説を聞いて地層の空間的な広がりを実感しました。光明寺では、八分咲きのソメイヨシノの下でお花見が楽しめ、心和む癒しの場面もありました。(K. K. )

                    

薄い砂岩を含む泥岩からなる逗子層 海面付近の泥岩に付着しているヤッコカンザシ (小坪)
▲薄い砂岩を含む泥岩からなる逗子層 (小坪)。 ▲海面付近の泥岩に付着しているヤッコカンザシ (小坪)。 
干潮で陸続きとなった和賀江島 潮が満ち島となった和賀江島
▲干潮で陸続きとなった和賀江島。 ▲潮が満ち島となった和賀江島。
現生と化石のヤッコカンザシの高さの差は60cm 地層が軟らかい時に波状に変形したコンボリュート層理
▲現生ヤッコカンザシ(下部)と化石ヤッコカンザシ(上部)の高さの差は60 cm ▲地層がまだ軟らかい時に外より力を受けて波状に変形したコンボリュート葉理。
和賀江島の築堤は箱根系の安山岩円礫で作られていた 住吉神社脇のトンネルに露出する逗子層
▲和賀江島の築堤は箱根系の安山岩溶岩の円礫で作られていた。 ▲住吉神社の脇のトンネルに露出する逗子層。
ゴマシオ状凝灰岩(HK)鍵層を観察 「和賀江島の碑」の岩盤の逗子層露頭を観察
▲ゴマシオ状凝灰岩(Hk)鍵層を観察(住吉神社)。 ▲「和賀江島の碑」の岩盤の逗子層露頭を観察する。
碑の岩盤下部に棲息するヤッコカンザシ・エゾカサネカンザシを観察 鎌倉第一中学校裏の逗子層の露頭
▲碑の岩盤の下部に棲息すヤッコカンザシ・エゾカサネカンザシを観察。 ▲鎌倉第一中学校裏の逗子層の露頭


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