わたしたちは「相模川流域の自然と文化」をテーマに活動している地域博物館です

相模川の生い立ちを探る会 第199回 2009年1月 「塩川滝と石老山礫岩」

平塚市博物館公式ページ

「相模川の生い立ちを探る会」 活動の記録

第199回 2009年1月18日 愛川町田代・塩川滝



■ テーマ:塩川滝と石老山礫岩
■ コース:愛川町田代半僧坊~南沢~塩川滝


 今回の目的は、丹沢山地と関東山地の衝突境界である籐野木―愛川構造線を歩き、小仏山地を作る相模湖層群と、衝突境界のトラフを埋めた愛川層群・石老山礫岩が断層で接する現場を観察することです。
 バスを降りた半僧坊は、ほぼ籐野木―愛川構造線の真上にあたる所です。周りを見渡すと特徴のある地形が目につきます。森先生が、「さっきバスで通った峠のところと現在地は、高度差が数十 mあり急斜面となっています。昔は中津川が峠のところを通って萩野川に流れていました。来る途中、谷幅が広かったのはそのためです。このあたりを籐野木―愛川構造線が走っているため、その変動によって萩野川側が隆起し、中津川の流路が現在の方向に変わった。つまり萩野川は上流を中津川に奪われたことになります(約 5万年前)。このことを河川争奪といいます。また昔の川底にあたる峠の部分が周辺より低くなっていますが、このような地形を風隙(wind gap)と呼んでいます」と説明がありました。いつもは気にもしないで通っているところに、このような大地のドラマがあったとは驚きでした。
 対岸には小高い丘が連なっています。これは中津段丘(中津原面)と呼ばれていて、その部分には約 3万年前に中津川が作った礫層があるそうです。次に中津川の河原に下りて、石ころの観察をしました。全般に青っぽい石が目につきますが、関東山地の石ころはありません。先生の解説では関東山地の石は、頁岩が多いため風化しやすく、石ころではなく砂になってしまうためとのことでした。つづいて河原石の分類をしました。はじめに先生から、相模湖層群(従来の小仏層群の上位層[古第三系部分]を呼ぶ)の石を拾ってくるようにとの指示があり(ヒントは黒っぽいツヤのある石)、みんなでそれらしきものを集め、それらについて見分け方、特徴を説明していただきました。今度は丹沢層群の石との指示(ヒントは青っぽい色)。集めた石で、凝灰岩(タフ)と火成岩の違い、色の濃淡と粒径の組み合わせによる分類の仕方等を説明していただきました。博物館の本に載っていたことを思い出しましたが、実物を前にして説明していただくと、非常に理解しやすいことをあらためて認識しました。
 河原石の観察を終え、塩川滝に行く途中の国道沿いの斜面に、地盤傾斜計や変位計が設置してあるのに気づきました。この辺りは地滑り防止地区に指定されているためで、今でも大地が動いていることが、身近に感じられました。この付近の露頭は、砂岩と頁岩の相模湖層群でした。
 塩川滝のある沢の入り口に、「景勝塩川滝」と彫られた石碑が建っていました。この石は約20万年前の箱根外輪山溶岩の安山岩で根府川石という石材でした。根府川石は一般には磨かないで使う場合が多いとのことですが、この石碑は文字を彫った面がきれいに磨かれていて流理構造がよく見えました。また、流理に対してほぼ直交する状態で細かなちりめん模様が観察されました。このような模様は今までに見たことがなく、成因についていろいろな説が出ましたが、サンプリングができないので確認することは出来ませんでした。
 石碑の場所から南沢に入り、トラフを埋めた礫岩を探しました。橋を渡った頃から、露頭がところどころ見えてきましたが、叩いてみると頁岩でした。橋から100 m程行った小さな沢に破砕帯が見られ、その少し上流で礫岩が現れました。小さく丸い礫ですが、紛れもなく待望の石老山礫岩でした。走向傾斜を測ってみると、N15W85Wで南沢にほぼ平行であり、相模湖層群との位置関係から、ちょうど籐野木―愛川構造線の真上付近に立っていることになります。この辺りは小さく丸い礫でしたが、さらに上流の塩川滝のある沢の入口付近ではこぶし大の礫などもあり、石老山礫岩層に入ったことがわかります。沢の入口から滝までの距離は80 mくらいですが、深い谷となっていて、全面が礫岩からなっていました。塩川滝付近にはN20Wの断層条線があることから、この谷は断層により形成された谷であることがわかりました。
 今回の巡検では、目的とした石老山礫岩を観察でき、籐野木―愛川構造線に伴う地形等について多くの知見が得られ有意義な1日を過ごすことができました。(S. Y. )
                    

中津川の河原は丹沢山地由来の凝灰岩と溶岩類のみからなる(愛川町田代  中津川河原) 河原石を集めて、礫の特徴や見分け方を学び、分類する(愛川町田代 中津川河原)
▲中津川の河原は丹沢山地由来の凝灰岩と溶岩類のみからなる(愛川町田代 中津川河原)。 ▲河原石を集めて、礫の特徴や見分け方を学び、分類する(愛川町田代 中津川河原)。
地滑り防止地区となっている箇所で、石垣のズレを測る(愛川町田代) 根府川石でできた「景勝塩川滝」の碑(塩川滝入口)
▲地滑り防止地区となっている箇所で、石垣のズレを測る(愛川町田代)。 ▲根府川石でできた「景勝塩川滝」の碑(塩川滝入口)。
南沢沿いの林道で露頭を探しながら歩く 南沢上流では石老山礫岩層が現れる。中礫からなる礫岩(南沢上流)
▲南沢沿いの林道で露頭を探しながら歩く。 ▲南沢上流では石老山礫岩層が現れる。中礫からなる礫岩(南沢上流)。
石老山礫岩層中の斑状の輝石安山岩の巨礫(南沢上流) 塩川滝へに近づくにつれ谷は深くなり、全面礫岩となる(塩川滝近く)
▲石老山礫岩層中の斑状の輝石安山岩の巨礫(南沢上流)。 ▲塩川滝へに近づくにつれ谷は深くなり、全面礫岩となる(塩川滝近く)。
石老山礫岩層にかかる塩川滝 塩川滝近くで見られた断層条線
▲石老山礫岩層にかかる塩川滝。 ▲塩川滝近くで見られた断層条線。


活動の記録へ戻る

大地の声へ戻る

 博物館トップへのリンク

電話:0463‐33‐5111 Fax.0463-31-3949

ページの先頭へ