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相模川の生い立ちを探る会 2004年3月

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「相模川の生い立ちを探る会」 活動の記録

第147回 2004年3月21日 房総


■金谷〜明鐘岬の三浦層群を見る
○コース:金谷〜不動岩〜明鐘岬〜元名海岸

 今回は,房総半島の岩石の専門家である千葉県立中央博物館の高橋直樹さんにご案内いただきました.房総半島西部の三浦層群は,フィリピン海プレートの沈み込みによって形成された前弧海盆(三浦海盆)を埋積した堆積物です.今回見たのは,そのうちの海岸部に露出する千畑層,稲子沢層,萩生層およびその上位の上総層群竹岡層でした.
 Stop 1で見たのは,鋸山頂上付近の竹岡層からかつて採掘されていた房州石です.岩相は,大規模な斜交葉理の発達した中礫〜小礫サイズの灰色軽石〜黒色スコリア質の火砕岩からなります.金谷の集落を歩いて行くと,この房州石があちこちの家の塀に使われており,地元の人たちには身近な石材だというのが実感できました.様々な方向性を示す斜交葉理の発達したブロック塀が積み重なっていると,その見た目は奇妙な芸術作品のようでした.
 Stop 2で見たのは,稲子沢層(約6-4Ma)および千畑層(約6Ma)です.稲子沢層は凝灰質砂質泥岩からなり,多くのテフラを挟在します.これらのうちスコリアの給源は当時の伊豆弧と考えられています.スコリア層は,過去の噴火に由来する茶色い類質岩片,伊豆弧の基盤を形成する緑色のグリーンタフや白っぽいトーナル岩などの異質岩片をしばしば含んでいます.また,スコリア層には希に火山豆石が含まれています.火山豆石は,スコリアなどの核の周りに火山灰が凝着したもので,マグマ水蒸気爆発や雨,雹,硫酸塩ゲルなどによって形成されると考えられています.マグマ水蒸気爆発によって形成された火山豆石は,一般には火口から20km以内にしか分布しないと言われており,房総半島は給源と考えられる伊豆弧から距離がありすぎることになります.
  一方,千畑層は大〜小礫サイズの礫岩からなり,特に蛇紋岩と玄武岩など嶺岡帯に似た岩石を含むのが特徴です。ただし、蛇紋岩の性質は嶺岡帯や三浦半島のものとも異なることから,これらとは別の岩体が起源と考えられています.玄武岩の結晶が樹枝状や骸晶状を呈しているのは急冷したことを示すそうです.その他に礫には,輝石ハンレイ岩や黒瀬川帯起源のザクロ石角閃岩など様々な起源の岩石をみます。基質には貝化石片のほか火山性の斑晶鉱物、火山ガラスなどを多量に含むことから、何らかの火山活動との関係が想像されるとのことです.
 Stop 3で見たのは,主に稲子沢層に挟在するテフラ鍵層Am78とKy21です.Am78は房総半島中部の天津層上部,Ky21は房総半島中部の清澄層中部のテフラ鍵層で,稲子沢層にも挟在しています.このテフラは一般に複数枚の遊離斑晶鉱物質テフラ(いわゆるゴマシオ状凝灰岩)から構成されますが,ここでは間に泥岩を挟まず各テフラが癒着しています.Ky21は平行葉理の発達する厚い遊離斑晶鉱物質テフラと粗粒なスコリア質テフラから構成されます.Am78とKy21は,三浦半島の逗子層中のテフラ鍵層OkとHkにそれぞれ対比されています.
 Stop 4で見たのは,萩生層(約4-3Ma)と鋸山向斜です.明鐘岬に立って鋸山方向を見ると向斜構造がよく見えます.ここでは,傾斜の変化(南傾斜-水平-北傾斜)を連続的に観察でき,地層が水平になる向斜軸が実際に観察できるという模式的な場所と言えます.その向斜構造軸付近に露出しているのが火砕岩の割合が多い萩生層です.
 Stop 5で見たのは,鋸山向斜南側の稲子沢層中のテフラ鍵層Ky21とAm78および千畑層です.これらは,向斜の北側地域では南傾斜でしたが,ここでは北傾斜に変わっています.このことから,東西方向に軸をもつ大きな向斜構造が実感できます.ただし,地層の走向・傾斜やテフラ鍵層の分布などから,この向斜は単純な向斜構造ではなく,断層やスランプなどが所々にあると考えられています.
 今回は房総半島西部の三浦層群上部の地層を概観できました.房総半島西部の地質は房総半島中部よりも三浦半島の地質に近い印象を受け,両半島は兄弟みたいなものだと感じました.また,房総半島の地層には伊豆弧起源と考えられるテフラが多く挟在しているうえ,千畑層は丹沢地塊の衝突に関連している可能性もあります.したがって,房総半島の地質は,丹沢などの伊豆弧の火山活動や伊豆衝突帯の衝突テクトニクスと大きく関連していることがわかりました.(M.F.)

 
参考文献
 千葉県立中央博物館(1997)三浦層群下部鍵層集I,75p.
 高橋直樹・荒井章司(1994)岩鉱,89,101-114.

房州石の土蔵 講師の説明
▲房州石でできた蔵を観察する。 ▲講師の高橋先生の話に耳を傾ける。
スコリア層の級化構造 千畑礫岩層の露頭
▲水中で堆積して出来たスコリア層の級化構造。上へ向かって粒子が細かくなる。 ▲蛇紋岩礫を多量に含む千畑礫岩層を観察する
いわゆるゴマシオ状凝灰岩 火山豆石
どこから飛んできたのか不明な、斑晶鉱物に富む白い火山灰(いわゆるゴマシオタフ)。厚さは人物に注目。 ▲火山豆石を含む凝灰岩。一般にマグマと海水が反応した爆発により生じたとされる。
向斜構造の露頭 成層したスコリア互層
▲明鐘岬で地層の向斜構造を観察する。人がいるところは水平だが、右手は左へ傾く。 ▲洗濯板状に火山灰を含む地層が続く。地層(萩生層)は左手(北側)に急傾斜している。

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