わたしたちは「相模川流域の自然と文化」をテーマに活動している地域博物館です

北極冠と南極冠

火星大接近 2003 (解説 新しい火星像)

北極冠と南極冠

平成15年秋季特別展図録 平成15年10月発行

吉岡美紀(国立極地研究所)

南北の違い
 地球の南極大陸が氷河で覆われているように、火星の北極と南極にも白い部分が広がっているのが見られます。これは、北極冠(写真X X)、南極冠(図Y Y)と呼ばれ、それぞれの夏に小さくなり、冬には大きく広がりますが、南北で多少異なる変化を見せています。地球上からの観測では、北極冠は北半球の春から夏にかけて縮小し、夏至の頃に最も小さくなります。秋分の頃になると、極地方は雲におおわれてしまいます。一方、南極地方は南半球の冬至をすぎてから雲が現れ、春分の頃までおおわれます。極冠の大きさは、それぞれの春分の頃でくらべると、南極冠の方が北極冠よりかなり大きく見えます。また、それぞれの夏季の縮小は南極冠の方が北極冠より速く進みます。この南北の違いは、火星の公転軌道が地球にくらべ、楕円であるためです。火星は、公転の速さが比較的遅くなる遠日点(太陽から一番離れる位置)付近で、南半球が冬至、北半球が夏至になります。そして、近日点付近で日射量が多い頃に南半球が夏至、北半球が冬至になります。つまり、火星の南半球は、北半球にくらべて、冬はより寒くて長く、夏はより暑くなります。

南極冠(夏) NASA/JPL/Malin

北極冠(夏) NASA/JPL/Malin

夏の極冠の大きさ
 夏季の北極冠の直径は約1,100Km、面積はおおよそ100万平方Km(地球の南極にある氷河面積の1/12)で、平均の厚さ1,000m、一番高い地点の高さ3,000m、氷の量は最大で1 2 0万立方km(地球の南極にある氷河体積の1/24)と推測されています。南極冠の方は、白く見える部分は直径約420Kmで、北極冠の1/3程度ですが、表面が風に運ばれてきた堆積物などで覆われて白く見えていない部分が、その周囲に広がっていると考えられていて、それをあわせて面積144万平方Km(地球の南極にある氷河面積の1/8)、体積200万~300万立方Km(地球の南極にある氷河体積の1/12)と推測されています。また、地球の両極で一年中氷に覆われている部分の面積(それぞれの夏季、小さくなった時の面積)をあわせると、海氷も含め地球表面積の約5%を占めますが、上記の値を用いると、火星では火星表面積の約2%を占めることになります。実際には、北極と南極で季節が逆になるため、特に火星では冬季側の極周辺で面積がこれより大きく広がるのが見られます。

地球から見た火星(北半球が春) NASA/JPL/AURA

氷とドライアイス
 火星の極冠の正体については、まだ直接、採取した観測はありませんが、火星を回る探査機のデータから、南北とも氷(H2O)の本体をドライアイス(CO2)が覆っていると推測されています。ドライアイスは、冬に氷全体と周囲の地表を覆って白く見える部分の範囲を広げ、夏には昇華して、その下にある氷を露出させると考えられています。
 火星の極冠には、地球上の氷河には見られない渦巻き状の溝があります。この溝がどのようにしてできるのか、まだよくわかっていませんが、北極冠ではこの溝は深さが500mに達します。溝の側面をマーズ・オービター・カメラの画像で見ると、極冠は厚さ数m縲恊拍\mの層が多数積み重なってできていることが観察されます。

春の北極冠の断崖(幅約3km) NASA/JPL/MSSS
チリと氷、砂などの混合物が層状に重なる。


極冠への涵養(かんよう)
 火星極冠への涵養(氷の供給)については次のような観測がされています。探査機データの分析結果から、北極冠上空に春季と夏季にH2Oの雲が広がることが示されました。さらに北極冠の表面温度と大気中水蒸気濃度の観測からは、夏に暖かくなる(マイナス73℃以上)と大気中水蒸気が急激に増加し、夏が過ぎると水蒸気が減少して表面のアルベドが増加することがわかりました。このことから、極冠への氷の涵養は夏季を過ぎた頃に行われると考えられます。涵養方法については、大気中の水蒸気が直接、極冠表面に霜として凝結する、あるいは、雪として降り積もると推測されます。
 氷を覆うドライアイスをもたらすCO2雲については、秋に発達し始め、冬季に最大となってその後減少するということが、探査機による観察で明らかになっています。火星でも雪が降っているのかもしれません。


北極冠模型 長岡技術科学大学機械系東研究室制作
ページの先頭へ