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ヘラス平原(Hellas Planitia)

火星大接近 2003 (解説 新しい火星像)

ヘラス平原(Hellas Planitia)

平成15年秋季特別展図録 平成15年10月発行

堀田弥生(独立行政法人防災科学技術研究所)




ヘラス平原の概要
 火星の地表面は、滑らかな北部低地と、複雑な地形をした南部高地に大きく分けられます。南部高地は大小のクレーターに覆われており、氷河地形や砂丘も存在しています。ヘラス平原は南部高地の南緯3 0〜6 0度、西経2 6 0〜3 2 0度付近に位置しています。ヘラス平原の主要な部分は、火星最大のインパクトクレーター、ヘラス盆地から構成されます。太陽系の中でも最大級の大きさで、直径はおよそ2 , 1 0 0 k m、深さはほぼ9 k mもあり、日本がすっぽり入ってしまうほどの広さです。冬には凍り付いて白くなった盆地底が、地球上からも観測できます。また、砂嵐が発生しやすい地域で、7月にも観測されています。

ヘラス平原 NASA/JPL

ヘラスの地形
 下図はヘラスの横断面と平面図です。クレーター縁の高さは約2 0 0 0m以上の高さがあります。クレーター縁は同心円状に3重構造になっています。ヘラスの形状は非対称で、クレーター縁を形成する断層地塊の南部は段々低くなり、麓は地すべり堆積物によって囲まれています。また、南部の一部は火山噴出物によって覆われています。
 盆地の底の中央に降り立ったとしても、あまりに大きすぎて盆地とは実感できないでしょう。そこはでこぼこの平原です。このような平原は火星では至る所に見られ、ヘスペリア時代の洪水熔岩と考えられています。洪水熔岩は、地球上ではインドのデカン高原の例がよく知られています。通常の火山噴火とはメカニズムが異なり、大量の玄武岩質熔岩が地表に噴出したものです。

ヘラスの横断面と平面図 (NASA/JPL/MSSS)

ヘラスの地形発達史
 インパクトクレーターは他の惑星にも一般的に見られる現象です。惑星の形成過程の初期では、大量の隕石衝突の時期があったと考えられています。ヘラスやイシディスなどの超大型隕石は衝突後、洗面器をひっくり返したような大きな平底型の盆地を形成します。大気のない月や水星ではクレーター形成後、大きな変化がありません。しかし、地球や火星のクレーターは、形成後侵食されたり、堆積物に覆われたりして、地形が年月とともに変化するのが特徴です。
 ヘラス平原も火星におけるクレーター形成期の初期に、巨大隕石のすさまじい衝突によって形成されました。衝突の際の噴出物は中心から4 , 0 0 0 k m四方に散って堆積し、下図にあるような外輪山や周辺の地形を形成しました。このときに飛び散った噴出物の量は、アメリカ大陸に広げると、3 . 5 k mもの厚い層になると推定されています。中心部では跡形もなくすべてが吹っ飛び、同心円状のクレーター縁は、インパクト直後すぐに形成されました。陥没した大地は広範囲に侵食され、残存山地や丘を残しました。クレーター形成はすぐには終息せず、洪水熔岩が広域に噴出しました。その後、表面が侵食された後、ヘラス盆地の地表に見られる物質が堆積しました。

ヘラス平原の同心円クレーター痕

ヘラスの重力分布
 下図は火星のジオイド面を表しています。ジオイドとは、地表面に溝を引いて、海水を満遍なく均した想像上の面です。回転楕円体と異なり、重力による凹凸があります。窪んでいるヘラスの反対側はオリンポス山の出っ張りです。ヘラスから失われた物質の質量とオリンポス山のあるタルシス高地の重量による影響が、このような形になって現れています。火星儀をみると、ヘラスの裏側にはオリンポス山が位置していることが分かります。

火星のジオイド面
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