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溝状地形と河川地形

火星大接近 2003 (解説 新しい火星像)

溝状地形と河川地形

平成15年秋季特別展図録 平成15年10月発行

末吉志生実(日本プラネタリウム協会会員)

溝状地形と谷地形の分布
 現在の火星の環境では、地表面の水は凍るか、あるいはほとんど直ちに蒸発してしまうでしょう。しかも、火星の大気にはほとんど水がありません。したがって地球にあるような川と洪水によって刻まれたように見える地形の特徴を見つけることができるとは思われていませんでした。けれども、こういった地形は火星の多くの場所に見られます。いつ、どのようにしてこのような地形が生じたのでしょうか。
 地形は2つのタイプ、流出チャンネル(チャンネル=大規模な溝状地形)と谷ネットワークに分類されます。次の図で、流出チャンネルは赤、谷ネットワークは黄色で示しています。主に、北部低地の若い表面に流出チャンネルが分布しています。一方、谷ネットワークの多くがクレーターが多い古い南部高地に分布していて、ほぼ火星表面の半分を占めています。これらから、谷ネットワークが、ノアキス代とヘスペリア代の古く、へこんだ地形全体にわたって生じている一方、主として北部低地(アマゾン代)の若い表面に流出チャンネルが生じることがわかります。つまり、流出チャンネルは谷ネットワークの後に形成された、と考えられるのです。

火星表面に見られる流出チャンネル(赤)と、谷ネットワーク(黄) NASA/JPL/MSSS

谷ネットワーク地形
 谷地形はさらに大まかに2つのタイプに分けることができます。わずかな支流をともなう程度の長い曲折した谷、そして、比較的小さな谷ネットワーク、複雑に木の枝のよう(樹状)に支流が分岐し、広がるパターンです。
 長い曲折した谷の例を写真1に、樹状の谷ネットワークの例を写真2にあげます。長い曲折した谷は、その先端が急な崖で終わる特徴が見られます。これは河川の始まりが泉のような、地下水が湧き出る場所から始まることを意味しています。
 樹状の谷ネットワークの成因は降水や地下水の流出によることが考えられます。どちらも水の流れが続くことで出来る地形であることから、40億年前頃には、火星が温暖で湿潤な時期があった事をうかがわせます。

長い曲折した谷の例 NASA/JPL/MSSS


樹状の谷ネットワーク NASA/JPL/MSSS

流出チャンネル
 流出チャンネルは多くの場合規模が大きく、幅1 0 0 k m以上、長さ2 0 0 0 k mにも及ぶ場合もあります。流出チャンネルが見られる地域はタルシス地域、エリシウム地域、ヘラス地域などの火山地形との関連が見られます。それらが始まる地域には陥没した地形や、カオス地形が広がっています。これは火山活動などの熱で地下の永久凍土層が溶けた状態のところで、何かのきっかけで大がかりな陥没が起きたように考えられます。その結果、地表に大量にあふれ出た水が大洪水となって北部低地に流れ出し、流出チャンネルを作ったと考えられます。
 ただし、この仮説の問題点は、流れ下った先に水がたまっていた形跡が残されていないことです。また、洪水の出発点の陥没地形の大きさから推定される水量を供給できたかどうか、疑わしいのです。
 こうした破滅的な洪水は地球でも生じました。例えば、ワシントン州のコロンビア川流域に広がる表土流失地域は、更新世のミズーラ(ミゾウラ)湖の崩壊から形成されました。また、このエリアは多くの点で火星の流出チャンネルに似ており、注目されます。(コロンビア川・スポーケン洪水とカセイ谷の項参照)
 火星の湖は、水の存在を可能にするような濃厚で湿潤な大気がない現在の条件のもとでは、存在することはできません。けれども地下水仮説は、現在の状況下でも可能である、という長所があります。

流出チャンネルの例 アレス谷 (カシミール)
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