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火山と峡谷 巨大な火星の火山

火星大接近 2003 (解説 新しい火星像)

火山と峡谷


三橋裕之(天体観察会会員)

巨大な火星の火山
 火星の火山は主にタルシス地域、エリシウム地域、ヘラス地域、という三つの地域に集中しています。それぞれの火山は地球の火山に比べ、巨大な山体を持つことがわかってきました。
 火星の火山がたいへん巨大である理由は、長い年月にわたって同じ場所から溶岩が噴出し、それが積み重なったためだと言われます。火星には、地球にあるようなプレートテクトニクスのメカニズムがありません。地球では星の中心部がとても熱いために、マントルと呼ばれる地球内部の岩石の層がゆっくりと対流しています。そのため、プレートと呼ばれる地表の層もその対流に乗って、島や大陸をのせたまま常に移動しているのです。そのスピードは年間に数c mという微かなものですが、何百万年というスケールでみれば、たいへんな移動距離になります。現在ではアフリカ大陸と南米大陸の間には広大な大西洋がありますが、数億年前には両大陸は一つだったこともよく知られています。このプレートテクトニクスの有無こそ、地球と火星の火山の規模の違いをもたらす大きな要因です。
 太平洋や大西洋など地球の海洋底には、たくさんの火山島や海底火山がありますが、火星のような巨大火山には成長しません。マグマが上昇してきて一つの火山体が形成されても、時間をおいて次にマグマが上昇してきた時には、前に形成された火山体は他の場所へ移動してしまっていて、また一から火山体の形成が始まるということを繰り返します。しかし火星ではプレートテクトニクスがないので、ひとたび火山活動が始まるとずっとそこで噴火を繰り返し、溶岩が積み重なって一つの巨大な火山が形成されるのです。

火山の地域


マントルプリュームの想像図 (カリフォルニア大学)

火星の火山の特徴
 火星にある巨大火山は、地球の「楯状火山」と呼ばれる種類の火山によく似ています。楯状火山とは、ひじょうになだらかな斜面をもった火山で、ちょうど楯を地面に置いたような形に見えることからこの名で呼ばれます。ハワイ島にあるマウナケア山、マウナロア山などがその典型とされます。標高4 0 0 0mを超える高山ですが、その形はとてもなだらかで、山頂まで自動車で行けるほどです。火星の火山はその高さがまず注目されますが、裾野の広さもまた驚異的です。オリンポス山の裾野は直径約6 0 0 k m、これは本州の約半分がそのまま収まってしまうほどの広大さです。いくら2 0 0 0 0mを超す高山であっても、裾野がこれだけ広いと、ゆるやかな丘のようにしか見えないと言われます。
 火山体の形や噴火のタイプは、マグマの性質によって決まります。マグマの成分は主に珪酸(シリカ/SiO2)、鉄、マグネシウム、カルシウムなどですが、これらの中でもっとも割合が多く、なおかつマグマの性質を大きく左右するのは珪酸です。マグマの中に珪酸が多いと、粘性が増し、溶岩は流れにくいのでドーム状の火山体が形成されます。箱根の二子山や雲仙普賢岳などがこのタイプです。珪酸が多い溶岩には流紋岩、石英安山岩(デイサイト)などがあり、色は白っぽく、比重が比較的軽いのが特徴です。私達の身近に見られる軽石はたいてい白い色をしていますが、多くはこのタイプの火山から噴出されたものです。

オリンポス山 (NASA/JPL/MOLA)
 一方で、マグマの珪酸の割合が少ないと、溶岩は流動性に富み流れやすくなるので、火口から遠くまで流れてゆき、なだらかな楯状火山や広大な溶岩台地が形成されます。珪酸の少ない溶岩は玄武岩と呼ばれますが、鉄やマグネシウムを含む有色鉱物に富むので、色は黒っぽく、比重も高くなります。火星の楯状火山をつくっている岩石も、玄武岩質のものと言われます。玄武岩は私達の身近では、富士山や伊豆大島などの火山で見られます。

オリンポス山とハワイ諸島 (断面図)

マリネリス峡谷
 火星の赤道付近にマリネリス峡谷と呼ばれる深い谷があります。「火星のグランドキャニオンなどと称されたりもしますが、深さ約8 0 0 0m、長さ約4 0 0 0 k mという規模は、アメリカ合衆国アリゾナ州にあるグランドキャニオンをはるかに陵駕する規模です。
 地球のグランドキャニオンは、コロラド川が高地を侵食して作られたものですが、火星のマリネリス峡谷は河川が削ったものではないようです。火星表面では局部的に、水によって侵食を受けたと思われる地形が見つかっており、マリネリス峡谷の中でも、峡谷が北部の低地へ開ける部分では洪水の痕跡と見られる地形が多く見られます。しかし、これほど大規模な峡谷がすべて水流の浸食によって作られたとは考えにくく、より大きなスケールでの構造運動によるものと考えられます。この峡谷が前述のタルシス高地の巨大火山群のすぐ近くにあることや峡谷が直線状にタルシス高地に向かって発達していることなどから、両者の成因には関連があるかもしれません。マリネリス峡谷ができた理由を知るためには、惑星全体の歴史や構造をふまえた研究が必要であると考えられます。

マリネリス峡谷(カシミールにて作成)
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