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火星の地史

火星大接近 2003 (解説 新しい火星像)

火星の地史

平成15年秋季特別展図録 平成15年10月発行

 火星は、バイキング探査機による火星の地形写真を調べた結果、大きな地形区分、衝突クレーターの大きさと数などをもとに層位学的な見方や、月の年代測定から生まれたクレーター年代学などから大まかではありますが、火星の地史について議論できるようになってきました。
 その基本的な考え方は、古い時代から新しい時代になるにつれて、大きなクレーターと小さなクレーターが同時にたくさんできた時代、、少しの大きなクレーターとたくさんの小さなクレーターができた時代、少しの小さなクレーターができた時代、と移り変わるという区分です。
 火星表面1 0 0万平方k mあたりの直径1k m以上の衝突クレーター数をクレーター密度とよび、クレーター密度から火星の年代を三つに区分しています。古いほうから順に、クレーター密度4 8 0 0以上がノアキス代、4 8 0 0〜1 6 0 0のヘスぺリア代、1 6 0 0以下のアマゾン代です。

古い大地と新しい大地
 それぞれの名称はその時代の地表が最もよく露出している地域になじんで名付けられました。ノアキス代は南半球のクレーター高地ができた時代、ヘスペリア代はクレーター高地の一部を溶岩がおおった時代、アマゾン代はオリンパスやタルシスの盾状火山ができた時代です。
 月の岩石は地球に持ち帰って放射年代が測定されているので、月の岩石の年代と採集地域のクレーター密度との関係に対応がついていますが、火星の岩石はまだ持ち帰っていないので、地表面が何億年前にできたかたという絶対年代はわかっていません。わかっているのは、できた順番だけです。しかし月と火星で衝突した天体の数と大きさが時間とともに同じように減少したと仮定すると、およその年代がわかることになります。おおよそノアキス代は4 5 . 5億〜 3 7億年前、ヘスペリア代は3 7億〜3 0億年前、アマゾン代は3 0億年前から現在までといった具合に、かなりの幅がありますが、見積もられてきました。
 図1は直径が1 0 0 k m以上のクレーターの分布で、白く描かれたところがクレーターです。これを見るとクレーター密度の高い地域とまばらな地域が遍在することに気がつきます。これをもとに三つの時代に見合う地域に色分けしたものが、図2です。
 これからそれら三つの時代について見てみましょう。各地質年代はノアキス代が三期、ヘスペリア代が二期、アマゾン代が三期、前・中・後期あるいは前・後期と別れています。以下の時代毎の出来事は、現時点での探査機からのデータを元に発表されたことがらをもとに、組み立てられた各時代の概要です。

図1.直径100km 以上のクレーターの分布(白丸)
1999-2000Mars Now Team and the California Space Institute


図2.クレーターの分布から区分けされた火星の地質年代を表す三地域
1999-2000Mars Now Team and the California Space Institute



ノアキス代前期 
 いん石が衝突を繰り返す時期で、多くのクレーターが作られました。ヘラス盆地は直径2 3 0 0kmにも及ぶ火星最大の巨大クレーターです。この他にも直径1 9 0 0kmのイシディス盆地、直径1 2 0 0kmのアルギュレ盆地などが形成されました。北半球が相対的に低地であることを、この時期に衝突した小惑星によってえぐられたと考える科学者もいます。また、この時期にいん石の猛烈な衝突が豊富に存在した大気を宇宙空間に吹き飛ばしたと考える科学者もいます。
 科学者のなかには火星のバクテリアはこの時期に生きていたかもしれないと考えている人もいます。論争の的になっている火星のいん石ALH 84001中の微化石は、この時代に存在した微生物を持っていたことになるからです。

アリュギュレ盆地 NASA/JPL/MSSS

ノアキス代中期 
 いん石衝突の頻度は下がり、火山活動が活発化し、火星表面の4分の1にあたる面積を溶岩流が覆いました。この時期に約6 5 0万平方kmに及ぶ、巨大で、周辺から約1 0 k mもの高さの高原であるタルシス地域を形成しました。このタルシスを作ったマグマから放出されたと考えられる水(水蒸気)と二酸化炭素の量は膨大で、火星の大気圧が1 . 5気圧、水は火星全体を1 2 0mもの厚さで覆うだけの量はあっただろうと推計されています。そのためか、他の時代にくらべ浸食作用が盛んに進み、地表の1/4を塗り替えたほどでした。しかし、太陽風にさらされた大気は、宇宙空間に持ち去られた、とも考えられています。

タルシス地域
マグマが巨大なかたまりとなって、タルシスの地下に分厚く分布している。


ノアキス代後期
 高地の火山活動が徐々に収まりました。

ヘスペリア代前期
 火星は徐々に冷えつつありました。それまで水によるV字型の浸食が盛んだったのに比べ、U字型の浸食が見られるようになりました。このことが地表には水から氷へと、その存在が変わっていったことになる、とも考えられます。マリネリス渓谷が形成され、タルシスの周りにうね状のすじをつくりました。

ヘスペリア代後期 
 マリネリス渓谷の底におそらくは湖の底にたまる沈殿物として層状の堆積物が沈殿しました。北部の平原が溶岩流で満たされました。大きな河川の谷が形成されました。エリシウム火山もこの時代に噴出し始めました。この頃、北部の平原の厚い堆積物ガ、南部の高原からの洪水によってもたらされました。

アマゾネス代前期
 タルシス地域で隆起が繰り返され、それによって放射状の地溝(グラーベン)を形成しました。隆起とともにタルシス火山の噴火が伴いました。
 マリネリス渓谷は、泥流などで次第に堆積物がたまっていく一方、継続的な地殻変動によって拡大しました。タルシスで地下水が、洪水となって吹き出し、大きな流出谷(カセイ谷など)を形成しました。エリシウム地域で火山活動が続き、北部の平原を溶岩流で埋めていきました。

アマゾネス代中期
 タルシス地域の火山活動が衰え、多くの谷が形成されました。

アマゾネス代後期 
 マグマの噴出により、新鮮な溶岩がタルシス地域を一部覆いました。オリンポス山の最も最近の溶岩流出がこの時期に生じました。現在の火星は火山活動はなく、オリンポス山や、大きな火山はみな活動を停止した、と考えられています。

タルシス周辺の地形 MOLA Science Team


アルバ・パテラに見られるグラーベン NASA
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