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_ミタマ入れ

平塚のお祭り −その伝統と創造− (I)

 ミタマ入れ

平成17年夏期特別展図録 平成17年7月発行

 宮神輿へのミタマ入れは、ヨミヤの晩や例祭の朝になされる。これを遷霊祭や遷座式などと呼ぶ。ミタマは本殿の御扉に納められており、宮司が取り出し、そっと神輿へ納める。ミタマ入れの作法はいくつかあり、宮司ごとに少しずつ異なるようである。ミタマを抜くときは反対の所作で行われる。
1.マスクをかけた宮司がミタマを懐に抱えて移動し、懐から取り出して神輿へ入れる。(万田愛宕神社など)
2.神輿の周囲を布で囲い、布の中で宮司がミタマを入れる。(田村・大神・横内など)
3.神輿を拝殿へ入れ、暗闇の中でミタマを遷す。(寺田縄日枝神社など)
4.神輿の周囲を布で囲った上、暗闇の中でミタマを遷す。(四之宮前鳥神社など)
5.拝殿で菅蓋を被った祭主が、担いだままの状態の神輿へミタマを入れる。(真田神社)
6.祭司が警蹕の声をかけてミタマを降ろす。(上吉沢八坂神社など)
 圧巻なのは真田神社のミタマ入れである。真田神社はヨミヤの19時から動座式を開始する。神輿は社殿に向かって左手前に据えてある。担ぎ手は鳥居の外で待機する。やがて神輿の環が激しく打ち鳴らされ、担ぎ手が鳥居からいっせいに神輿へ向かって駆け出す。一人、二人と神輿の輿棒へとりつき、しゃがんだ姿勢のまま、激しく神輿を上下する。掛け声は「ヨイヤーサー、ヨイヤーサー」である。神輿が立ち上がると、掛け声と環を叩くテンポを落とす。
 拝殿へ斜めに渡されたスロープ状の足場を神輿が上り、拝殿入口まで神輿を寄せる。前棒の担ぎ手は腰をかがめて低姿勢をとる。拝殿内から比々多神社宮司が神輿へ近づく。宮司は、神職がかざす菅蓋という垂れ布を被る。環の音と「ヨイヤーサー」の叫びに合わせ、神輿を激しく揺する。神職が放つ「オーー」という警蹕がサイレンのように響くなか、菅蓋を被った宮司が神輿の御扉を開け、ミタマを入れる。ミタマは石であるといわれるが、誰も見た者はない。宮司から菅蓋が外され、神輿のお発ちとなる。
 このように、担いだままの状態でミタマを入れる神社は真田神社の他に無い。昔からの伝統であるという。たいへんに荘厳なミタマ入れである。
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